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そもそも仕分けされる事業の選定自体がおかしい。教育・科学技術・医療など経済効果のみでは測れない事業は事業仕分けになじまない。このことは枝野議員本人が言っており、実際、地方交付税、診療報酬改定、米軍基地の思いやり予算をその例として挙げ、仕分け人の結論を政治の責任で変えたと述べている。鳩山首相は「聖域なき見直し」というどこかで聞いたセリフを持ち出しているが、小泉改革で「聖域なき構造改革」という非常に危ういワンフレーズポリティクスの結果、日本の社会保障がズタズタになったのを民主党は忘れたのか、その結果で政権交代が起こったという認識は全くないのか、と言いたい。財務省が予算削減したい事業を恣意的に選定しており、最も削減効果が大きいと推測される財務省所管事業はほとんど含まれていないことにも大いに疑問がある。仕分け人の選定も財務省の御用学者や経済人、訳の分からない所証券会社の人間ばかりで財務省にとってのみ都合の良い人選である。
日本の将来の科学技術をどうするのか、スーパーコンピュータやロケット、教育や医療は採算が取れないからといって財務省的な目先重視の狭い視野の中で切ってしまって本当に良いのか。この事業仕分けの中では民主党の政治理念、将来の国の在り方に対するビジョンがほとんど感じられない。ビジョンがあるというのなら少なくとも仕分け人の中に教育・科学技術・医療という経済的効果で測れない分野の専門家を半数以上入れるべきでなかったのか。これらの分野に関しては全くの素人判断になり財務省の都合のみがまかり通っているのが現状だ。
この事業仕分けはオープンな議論だと言ってかなり国民にも支持されているようで、確かに公開での議論はワイドショー的で面白いとは思うが、その内容は全くの財務省のお手盛りで見る人が見れば議論の内容はかなりお寒い。仕分け事業の選定、仕分け人の人選、論拠となる資料・データの信頼度、議論の進め方などがいかに恣意的・作為的で粗暴・粗雑かということがよく見えるということが一番評価できるということはまことに皮肉である。
診療報酬改定のみに関して言えば、1時間ばかりの短い時間で、素人による上辺だけの非常に乱暴・粗雑な議論で出てきた結論は財務省の目論見通りで、仕分け人16人中、(1)収入が高い診療科の報酬の見直し14人、(2)開業医と勤務医の報酬の平準化:13人、(3)公務員人件費カットやデフレ傾向の反映8人、などであった。一般の人には一見もっともな意見のように思えるだろうが少し社会保障を勉強して理解のある者ならならこんな結論には絶対にならない。中でもクレディ・スイス証券の市川某氏の「開業医は勤務医より勤務時間が短いのに高収入なのはおかしい」といった発言には「開業医は楽して儲けてけしからん」という開業医に対する侮蔑の本音がにじみ出ている。こういう類の発言に対してネット上では全国の開業医の不満・怒り・憤りの声が渦巻いている。
この手の発言は今に始まったわけでなく、マスコミの論調でも多くみられるが、医療の最前線で体を張って毎日頑張り、日本国民の健康を守っていると自負している大多数の開業医のプライドを踏みにじるものである。医師のほとんどすべては金儲けの手段として医師という職業を選んでなどいない。患者の命を救い、病気を治し、人に喜ばれたいという気持ちを必ず持っている。消防士や警察官、自衛官になる人たちもそうであろう。やはり人の役に立ちたい、という公的奉仕の精神を持っている人が大多数である。
多くの国で医療は公的な国民サービスとして位置づけられている。我が国でも国は国民の生命と財産を守る義務がある。従って安全保障のためには自衛隊も必要であるし、警察や消防も国による公的サービスである。彼らには国民の安全を自分たちが守っているという自負がある。医師も同じである。それゆえ医師は公務員ではないにもかかわらず、できるだけ貧富の差があっても安価で質の高い医療が受けられるという理念のもとに作られた国民皆保険制度に協力し、診療報酬という公定価格の国家による統制経済下でも甘んじて受け入れてきた。
証券屋のような金儲け最優先の人に自分たちと同じようなレベルの発想で我々開業医を見下すような発言をすることは断じて許せない。鳩山首相は自民党の古株に「あなたたちに言われたくない」と言ったが、我々も同じである。「あなたがたのような利益追求最優先の職業の方々に言われたくない」と声を大にして言いたい。国のため、公のために働く人々をないがしろにすればそれはそのまま鏡に反射するように直接国民に跳ね返ることを国民は理解しなければならない。
何ゆえ世界に冠たる国民皆保険制度が日本で成り立っているのかをもう一度よく考えて欲しい。医師は公務員ではない。にもかかわらず、診療報酬という世界的に見て非常に低価格に抑えられた技術料の公定価格を甘んじて受け入れているから国民皆保険制度でやっていけるのである。もし、開業医すべてが一斉に保険診療をやめ、自由診療を選択すればたちまちこの制度は崩壊する。国民皆保険制度が崩壊すれば貧富の格差がそのまま受けられる医療の格差に反映される世の中になるであろう。つまり「金のない者はまともな医療は受けられない」という現在のアメリカのような社会になる。
そもそも開業医と勤務医を比較すること自体ナンセンスである。大会社に勤めるサラリーマンの俸給と同じ業種の小さな会社の社長の俸給を比べることに何の意味があるのか。開業医は個人事業主である。開業場所・物件の選定、設計と内装、医療器械の選定、設備投資や資金調達(長期借入金)と銀行との折衝、役所関係の届け出書類の作成、看護師や事務職員の応募・面接と雇用、スタッフの教育、スタッフの雇用条件の設定と医療保険・雇用保険や労働保険、薬品類の仕入れ、レセプトコンピュータの講習、医療廃棄物の処理、などをすべて自分ひとりで行わなければならない。私の同級生の勤務医になぜ開業しないのかと聞くと、医療以外の事務やこういったことをするのも煩わしいし、経営がうまくいくかもわからないし、そこそこの収入があれば医療に集中できる今の環境の方が気楽でよいという。
現時点においても小泉改革の影響で経営がうまくいかず廃院して勤務医に戻る医師も増加している。開業というのはそれなりのリスクや医療以外の様々な負担を負ってしているわけで、精一杯働いて仮に勤務医より高収入があるからといって非難されるいわれなど全くない。開業医の勤務時間が短いというが、一部勤務医の労働基準法の規定を上回る勤務時間が長すぎる方が問題なのではないのか。さらに言えば開業医の勤務時間に、標榜している診察時間以外の往診や校医検診・休日急病診療所・介護認定審査会・予防接種事業などへの出務とそれらにかかる移動時間などを含めているとは到底思えない。
勤務医の労働時間が労働基準法をはるかに上回る状態であり、勤務医の労働時間を減らしたり、きちんと時間外収入を手当てしたり、税制上の優遇をするなどといった方策を取ることには異存はない。医療費全体の枠を増やして増額分を勤務医対策に充てるのならまだ話はわかる。しかし、「開業医は楽して儲けてるからその分を減らして勤務医に回せ」というやり方は筋違いも甚だしい。
収入が高い診療科の報酬見直しにしても名前の挙がった整形外科や皮膚科が本当に不当に高いのか、根拠となるデータの信頼度に疑問がある。低い所はあげればよいが、それなら総枠を増やして増額分で補填すべきであろう。デフレなど経済状況を診療報酬に反映させるというのもおかしい。それなら過去に景気が良い時に診療報酬も大幅に上げようという話などついぞ聞いたことがない。要するに診療報酬を下げるための口実でしかない。
おそらく財務官僚はこんな反論は百も承知の上の確信犯だと思われる。財務官僚は武見太郎日本医師会会長時代の医師優遇税制以来の積年の恨みを開業医に対して抱いており、いつか開業医の診療報酬を大幅に削ってやろうと虎視眈々機会を狙っていた節がある。自民党の族議員の圧力がなくなった今こそ好機到来である。自分たちに都合のよいデータのみを提示して民主党議員を手なずけることなどたやすいことであったであろう。
枝野議員は事業仕分け人の結論と反した結論を出した例として診療報酬改定を挙げた。確かに枝野議員の「勤務医、開業医の所得・収入がフェアなのか、適正なのか、あるいは診療科ごとの所得・収入がフェアなのかについては、客観的な情報データが必要であり、医療者、患者、皆が納得するデータをそろえる責任は厚生労働省にある。来年、再来年に診療報酬の議論をする際には、客観的なデータを基にしたい」という結論は唯一評価できる意見であった。しかし、よく勉強している原口総務大臣など他の担当大臣は事業仕分けについてかなり批判的な目で見ているのだが、一方で当の長妻厚労大臣だけは診療報酬に対する事業仕分け人の結論について肯定的な発言をしている。枝野議員以下の理解力である。前から危ぶんでいたがやはりこの人は年金批判だけで医療のことは何一つわかっていないど素人であることが露呈された。桝添前大臣の方がまだ医療に関しては理解度が高かったように思う。
財務省の役人が事業仕分けを隠れ蓑に今まで自民党政権下では出来なかったことが次々可能になり、ひとりほくそ笑んでいるに違いない。民主党は政治主導と言いながら完全に財務省の手のひらで踊らされている。 民主党は「コンクリートから人へ」と銘打って、鳩山首相は診療報酬の増額を公言・公約していたがそれはどこに行ってしまったのか。
自民党はチャンスである。民主党の目先にとらわれた財政規律優先、将来ビジョンのなさをもっと批判すべきである。ところが、東大を始め国立大の学長たちや商工会議所のような経済界ですら財政優先の仕分け事業の在り方に強く反発しているのに、気のせいか自民党からはこのような声はほとんど聞こえてこない。それどころか逆に、この仕分け事業のようなことを自民党もやりたかったなどと評価して悔しがる自民党の某御仁の発言には呆れてしまった。自民党も民主党と同じ思想ということか。自民党の族議員の悪い所ばかり指摘されてきたが、中にはしっかりとした政治理念から今回のような財務省の暴走に歯止めをかけてきた族議員もいたわけで、このことは再評価されるべきではないか。自民党はこのような視点で自分たちの正当性をもっとアピールできるではないのか。
野田財務副大臣は財務官僚の言いなりになって当初は診療報酬の3%減を言っていたが、さすがにここまで露骨になると長妻大臣ですら診療報酬総額での増額は公約だと反発した。そのせいか、野田副大臣は後に薬価引き下げ分のみを診療報酬増に充てるとしてゼロベースの改定を打ち出してきている。前回の総選挙では民主党の提言を信じ、約60%の医師は民主党を支持した(自民党支持は約20%)。このまま人民裁判のごとき事業仕分けの横暴、いや財務省の横暴がまかり通るようなら民主党の言うことは金輪際誰も信じなくなるであろうし、国民に対する不利益となって跳ね返り、近い将来民主党は国民よりこっぴどいしっぺ返しを食らうであろう。
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