医療法人 さほり眼科

 

 

近鉄奈良線「若江岩田駅」近くの眼科。赤ちゃんの目の健康相談、こどもの視力低下から、大人のつかれ目、中高年の白内障、緑内障に至るまで幅広い診療を行っております。コンタクトレンズ指導・取扱い。
医療法人さほり眼科の概要

 

リンク集

 

お問い合わせ

 

HOME»  2008年のひとりごと2

2008年のひとりごと2

2008年度の日記一覧

地方の医師不足について考える

11月1日

 

11月1日

平成20年10月16日、読売新聞に医療改革についての提言が掲載された。若手医師の計画配置案や診療報酬の見直し、患者側の問題などについては疑問点や異論もある。しかし、社会保障費抑制策からの転換や女性医師支援など賛成できる点も非常に多い。
とにかく医療・介護・年金といった社会保障が小泉・竹中改革の中でおろそかにされ、医療崩壊が加速している現在、大メディアが危機感を持って紙面の何ページも割き、あるいは社をあげてキャンペーンを張りテレビでも繰り返し医療問題を取り上げ、このような提言を行ったこと自体、非常に評価できる。読売新聞でもトップの項目に持ってきているが、地方の医師不足と産科・小児科・外科における医師不足、言い換えれば都市と地方、診療科別の2つの医師偏在が緊急の課題である。今回は、地方の医師不足について考えてみたい。

 

◎ 医師数は本当に足らないのか?

厚生労働省のデータによれば、最近の医師国家試験合格者は毎年7,600~7,700人程度であるが、医師数は死亡する医師等を除けば実質毎年3,500~4,000人程度増加している。医師数を人口10万人当たりでみると昭和30年での105.9人が平成18年には217.5人と約50年でほぼ倍増している。データでみると医師数は年々着実に増えており、もし本当に医師の絶対数が足らないとすればそれは医師数の増加が高齢者の増加による患者数の増加に追いついていないためと考えられる。

しかし、医師不足は特に地方の病院ほど顕著になってきており、医師不足というより、都市部への医師の偏在といった方が妥当であろう。ここにきて桝添厚労相は医学部定員の増加を打ち出してきており、医師の絶対数が増えれば多少は地方へと回るのでやらないよりはましだが即効性はなく、果たしてどれほどの効果があるのかは甚だ疑問である。

◎ 大学医局制度の崩壊

なぜここにきて地方の医師不足が生じたのだろうか。一言でいえば大学の医局制度の崩壊が原因である。医局制度とは大学教授を頂点にしたピラミッド型の人事体系で、いわゆる「白い巨塔」の世界である。

通常医学部の学生は5~6年次でポリクリと呼ばれる臨床研修を行う。これは5~6人の小グループに分かれ、すべての科を2週間程度でローテーションしながら実習を行う。ここで自分の行きたい科を見定め、卒業間近になると各科の入局説明会などを聞いて、医師国家試験に通ればほとんどの医師は出身大学の希望科の医局に入って研修医となるというパターンが長い間一般的であった。

 

医学部の大学教授はジッツと呼ばれる関連病院から医師の派遣を依頼されるので、医局内の人事権を一手に握っており、これが権力の源であった。関連病院は科によってまちまちで、同じ病院でも科によって系列大学が違うことは全然珍しいことではなく、関連病院の規模や数はそのまま教授の力を表すものであった。研修医は1年ほど大学病院で研修した後は教授の命令に従い、地方であろうが都会であろうが命じられた病院に派遣されるのが通例であり、2~3年は1年ごとぐらいに勤務病院を異動させることよってバランスを取り、医局内の不満が出ないようにしていくのが教授の大きな仕事のひとつであった。

独裁者のごとく教授に権力が集中し、逆らうことのできない医局制度の弊害は以前より指摘されていた。しかし、教授は地方の病院の依頼に応じて強制的に医師を派遣する力を持っていたわけで、以前から元々地方の医師は十分足りていたわけではなく、教授の絶対的人事権によって地方病院はなんとかやっていけていたという面は否めず、医局制度のすべてを否定することはおかしい。むしろ、トップの教授が人格者であればその医局には人が集まり、うまく運営されているところが多い。

 そもそも、医師免許取得者は何を目指すのか。もちろん人によって異なるが、基礎研究や監察医などの社会医学を志す一部の人々を除けば大半は臨床医を目指す。大学の医局には何があるのか。医学部の使命は診療だけではない。臨床・研究・医学教育の3つの役目がある(大学に残る者にはこの3つのバランスが必要であるが、論文をたくさん書いて教授になったが手術は下手で学生教育にはあまり関心がないなど、しばしば偏りがあって問題になる)。ほとんどの研修医は腕の良い臨床医を目指しており、研究や医学教育に積極的な者はほんの一握りであるから、そんな余計なことはしたくない、もっとバリバリ臨床だけをやりたいと思っている研修医も多い。

 

◎ 新医師臨床研修制度

ところが、平成16年度より新医師臨床研修制度がスタートして事態は一変した。この制度は研修医の低賃金過重労働問題や何科に行っても最低限の基本的な医療ができるようにと医師免許取得後2年間、内科・外科・産科・小児科・精神科・地域医療等の研修が義務化されたものであり、半面、研修医が自ら研修先病院を選べるようになり、待遇面でも保護されるようになった。

 この新医師臨床研修制度(スーパーローテート)のスタートにより、まず2年間大学医局の下働きを一手に担っていた研修医が全く供給されなくなり人手不足に陥った大学は、地方病院に派遣していた医師を引き上げざるを得なくなった。この傾向は都市部よりも地方の大学病院でより強い。これだけが地方の医師不足の原因であれば2年後からは医局に研修を終えた医師が戻ってくるので元に戻るはずである。ところがそうはならなかった。

 それは研修医自らが自由に研修先病院を選べるようになったことが大きく関わっている。研修医の多くが、大学の医局に在籍しなくても自分の腕を磨く道があることを知ってしまったのである。臨床研修医在籍状況の推移をみると、この制度が始まる前の平成16年には大学病院と大学病院以外の臨床研修病院に比率が約3:1であったのが、翌平成17年には約11:9となり、平成18年以降は約9:11に逆転したまま同比率で続いている。大学以外の研修医は約2倍に増え、大学病院の臨床研修医は5年前(5923人)に比べてほぼ半減(3423人)しているのである。私が医者になりたての約20年前には医師免許取得者はほとんど出身大学病院で研修を行っていた。

 都市部の一部大学を除いたほとんどの大学のどの診療科の医局も入局者は以前のほぼ半数以下になってしまった。以前と違って今の大学教授は大変である。国公立大学病院はすべて独立行政法人となって独立採算制となったため教授は自分の科の経営努力は求められるわ、医局員の研究費調達には追われるわ、医療事故でも起ころうものなら監督責任を追及され、医局員も昔のように皆絶対服従ということはなく言うことをきかない者もおり、今度は入局者募集のPRにまで勤めて勧誘しなければならない。昔と雲泥の差で本当に気の毒なくらいである。

大学の医局に入って行きたくもない病院に回されるのは嫌だ、大学の医局は診療以外の雑務が多過ぎる、学位なんて魅力がない、専門医を取れればよい、と思っている研修医も結構いるわけで、彼らにとっては研究や教育の比率の極めて低い大学以外の研修病院の方がよほど魅力的なのである。ただ、そこに行くには今までは教授の意に沿うしか道はないと思っていただけである。ところが、この制度が始まると、「何や。大学医局に入らんでも、好きな病院に行けるんや」となったわけで、大学以外の病院も今までは教授の口利きがなかったら医師を確保できなかったのが、自由に研修医と接触して優秀な人材を確保できるようになり、大学教授の仲介なしで両者の交渉が成り立つようになってしまった。もちろん、研修後の進路も自由になり、医局員の自由度も高まったため大学教授の人事権はどんどん縮小している。

 

◎ 地方に定着しない地方大医学部出身者

 それに世の不況もあって年々医学部受験はヒートアップしており、国公立・私立を問わず全国どの医学部も最難関で簡単には合格できない。数が圧倒的に多い都会の受験生も都市部の医学部に行きたいが贅沢は言ってられない、とにかく少しでも難易度が低く、入りやすい医学部ならと地方大を狙う。元々こういう人々はその大学のある地方出身ではないため、その多くは大学卒業後のいずれの時期には自身の出身地や都市部に戻ることを前提にしている。

地方大学も地元枠を設けたり卒後地元に残ることを条件に奨学金を出すなど考えているがこの程度では劇的な効果は期待できない。これまでは都市部の大学の医局は自大学の入局希望者が多く、なかなか他大学からは移りにくかった。しかし、この制度が始まると都市部の大学でも大学病院以外の大きな病院での研修希望者が増え、地方大から大学都市部の大学病院医局にもずいぶん入りやすくなり、都市部に戻りやすくなったため、余計に医師の偏在化が進んだのである。

 要するにこの新医師臨床研修制度は、研修医の中に今まであった大学医局の壁を壊してしまったわけで、多くの研修医が、卒業後しばらくは教授の意のままに動き、学会の準備や医局の下働きもし、僻地病院にも出向し、多少不満があってもみんな通る道だからと我慢しながらやっていくのが当たり前だと思っていた心理的・現実的な束縛を解き放ってしまったといえる。自分自身が研修医の立場になって考えてみたらよい。良い医師になるためにはたくさんの症例に当たり、優れた指導医の下でできるだけ多くのことを経験することが必要である。症例の質と量の豊富な病院で勉強したいと思うのは誰も同じである。ところが地方の病院は過疎化して老人ばかりで症例の質も量も貧弱で、指導医も少なく、医師としての実力をつけるには全く物足らない環境なのである。過疎地の人々に喜んでもらえるという使命感に燃える医師を教育で増やすとか、給与を高くするという方法だけでは自主的に地方病院に勤務させる若手医師を増やすことはできないであろう。

 

◎ 都市への医師偏在の解決策を探る

このように自由化すれば、僻地の病院には誰も行きたがらないのは至極当たり前のことで、多少有利な条件をつけたところで臨床の実力をつけたいというのが最優先の若い医師たちにとってそれに勝るものがあるとは思えない。桝添厚生労働大臣も僻地医療を希望すれば優先的に留学させてあげましょうとか、手当をいっぱいつけましょうとか、インセンティブを付ける方法、すなわちニンジンをぶら下げる方法が良いのではと言っていたが、それだけでは状況が変わるとは思えない。従ってこのような状況を解決するためには僻地医療を義務化するしかないと考える。元々、大学教授によって半強制的に出向させられていた状況に近いものに戻すだけのことであり、義務化にはさして問題があるとは思えない。ただ僻地医療の義務化の仕方については私なりに考えたひとつの案がある。

 1970年代、各都道府県に少なくともひとつは医大を作って地域医療の核にしようということで新設医大ラッシュがあった。その後30年以上経過し、新設医大の多くは地域の総合大学へと移管されている。しかし、現状では地方大学の医学部はその地域の医師の供給源たりえていない。なぜなら、地方大医学部の卒業生が自身の出身大学に残らないからである。せっかく1都道府県に最低ひとつは医大があるのである。少なくとも6年間、その地域の大学で世話になり、勉強させてもらって一人前の医師として育ててもらったのである。卒業後、出身大学のある都道府県の僻地医療に2年間ほど従事することを義務化してもよいのではないか。だた、そのやり方については詳細な検討が必要である。

◎ 医学部の学費について

 ヒントは自治医大や産業医大方式である。自治医大は昭和47年に僻地医療に従事する医師を養成するために47都道府県が設立した大学で、入学金100万円、授業料・実習費・施設費で年額360万円、6年で計2260万円の修学資金を貸与し、卒後に出身都道府県の指定する僻地公立病院で9年間勤務すれば修学資金の返還が免除される。産業医大も昭和52年に産業医の育成のために作られた大学で、6年間で2869万円の学費のうち、実質負担額は949万6800円で、1919万3200円は貸与され、卒後9年間産業医としての職務を果たせば免除されるシステムになっている。いずれも卒後の義務を果たさなければ多額の学費を返還しなければならない。

 通常、医学生を教育して一人前の医師に育てあげるのに一人当たり1億円近いの経費がかかると聞いたことがある。そこまでいくかどうかは定かではないが、私立医大の6年間の学費が入学金・授業料などを合わせて大体4000~5000万円前後、自治医大や産業医大でも2000~3000万円かかる所を見るとかなり高額の経費がかかることには違いない。

 

さて、翻って国公立大学の医学部の学費を見てみると、2008年度は年間81万7800円なので現在6年間で500万円弱と私立医大の約10分の1、自治医大の約5分の1である。 この学費は工学部であれ、文学部であれ一律同額である。つまり国公立大学の医学生は医師の資格を得るまでに相当額の税金が投入され、私立医大や自治医大と比較すると約8~9割の学費がすでに免除されているという計算になる。医師は公共財であるから国や都道府県が税金を使って医師を育てていくのは全然おかしい話ではない。しかし、自分たちはこれだけ多額の税金で育ててもらったとのだいう意識をどれほどの国公立大出身の医師が持っているであろうか。彼らはもっとそのことを社会に還元する義務があるのではないだろうか。国公立大出身の医師は、特に出身大学のある都道府県の僻地医療の担い手となり、国や都道府県・市町村の医療を手助けをすることは当然の責務ではないかと思う。

 新臨床研修制度が医師偏在、地方の医師不足の一因になったことは確かだが、この制度の趣旨自体は間違いではないと思う。この制度で医師免許を持つものすべてがある程度の基本的な医療を身につけることができる。我々の時代には、いったん眼科や皮膚科などのマイナーな専門科を選べば、救急処置や全身管理などのトレーニングを受けることはなく、幸か不幸か死亡診断書の1枚も書いたことのない医師がほとんどであり、そういう全科的な研修はしたくてもできないのが普通であった。

 

◎ 提案:「国公立大学医学部出身者にはその地域の僻地医療を義務化する」

 自由度の高い臨床研修医制度はそのまま残してもよいと思う。しかし、その分、僻地医療の義務化という制約を課してもよいのではないか。研修終了後も臨床研究したり、留学したり、個々でいろいろな事情があるであろう。だから研修期間終了後の10年くらいまでの間の好きな時期にトータルで2年間、卒業大学のある都道府県のリストアップした僻地病院の中から行きたい所を選択して勤務することを義務化する。もし、これを成就できないときには自治医大や産業医大にならい、その期間分、本来の学費の免除分(2年間丸々なら約1000万円)を国や都道府県に返還する義務を負わせる。返還を拒否すれば保険医の資格を停止する。自由診療での開業を防ぐために、僻地医療の義務を果たさず学費返還にも応じない者には診療所の開設を認めない。逆に私立医大出身者で指定された病院での僻地医療を希望する者には2年分を上限に学費を本人に返還する。義務違反のペナルティで返還されたお金は、私立医大出身者の学費返還分や僻地医療勤務医のインセンティブに使えばよい。

 さて、どの年代で線引きしてこの義務化を実行するかが問題である。筋から言えばこういう制度になることがわかった上で受験した国公立大医学部卒業生から始めるのが最も望ましいが、それでは即効性がない。現実的には平成16年度以降の新医師臨床研修制度の恩恵を受けた研修医から始めるのが最も良いであろう。もちろん、すでに大学医局から僻地に派遣されている医師はその分をカウントすればよい。

 以上は私案なので、もちろん義務化の期間や返還金の額などは詰めればよいし、出身大学のある都道府県の僻地勤務が最も望ましいと思うが、事情によってどうしても無理なら他の都道府県の僻地に振り替えるなど、運用はフレキシブルにすればよい。とにかく、この問題に関しては早急に手を打つ必要があると思うが、皆さんはどう思いますか。