コロナ禍が証明した国家財政の真実-日本の財政破綻はあり得ない

 このコロナ禍をきっかけに、遂に多くの人々が持つ常識を根底から覆すような国家財政の真実が証明されてしまいました。私は決して経済や税務の専門家ではありませんが、これまで地区医師会や大阪府眼科医会の経理、自身の診療所の経営に携わった経験から財政収支=貸借対照表(バランスシート)のことは多少分かっているつもりです。皆さんもプライマリーバランス(PB)という言葉をご存じと思いますが、これは国や地方自治体の基礎的財政収支を表す言葉です。

財務省のホームページには「プライマリーバランス(PB)とは、社会保障や公共事業をはじめ様々な行政サービスを提供するための経費(政策的経費)を税収等で賄えているかどうかを示す指標です。現在、日本のPBは赤字であり、政策的経費を借金で賄っている状況です。この日本の財政の状況を家計にたとえると、毎月、新たな借金をして、給料収入(税収等)を上回る生活費(政策的経費)を支出している状況です。2020年度当初予算の国の一般会計歳入102.7兆円は、(1)税収等と(2)公債金(借金)で構成されています。現在、(1)税収等では歳出全体の約2/3しか賄えておらず、残りの約1/3は、(2)公債金(借金)に依存しています。この借金の返済には将来世代の税収等が充てられることになるため、将来世代へ負担を先送りしています。(1)「税収等」:所得税、法人税、消費税等の税による収入とその他の収入(2)「公債金」:歳入の不足分を賄うため、国債(借金)により調達される収入」、また「我が国の2020年度の一般会計第2次補正後予算で考えてみると、政策的経費とは、歳出総額から国債費を除いた136.2兆円、税収等とは、歳入総額から公債金を除いた70.1兆円であり、PBは66.1兆円の赤字になっています」と記載されています。財務省は財政均衡、PBの黒字化を宿願としてきました。そして大多数の国民はこれが正しいと信じこまされてきました。

確かに家庭では所得、医師会や自治会などでは会費、会社や企業においては営業利益、地方自治体なら市県民税や地方交付税などの収入があり、その範囲内で予算を組んで支出するというのが一般的な常識です。ところが家計と貨幣発行権という権力を有する国の財政は同じわけがないはずです。しかし財務省はわざわざ太字や下線を使ってまでして印象操作を行い、国民に巧みな刷り込みを行っています。

財務省は「国は国民から税金を集めて、そこから支出している。足らない分は国債という借金で賄い、その公債金は国民の借金であり、将来国民が返さなければならないものだ。そして公債金(赤字国債)が膨らむと国家財政は破綻して大変なことになる。だから国民の税負担が重くなっても仕方がない」というあたかも国家財政も家計と同じかのようなレトリック(巧言)で国民を煽ってきました。そして政府は安定財源とか社会保障のためとか将来へのツケを回さないとか様々な理由をつけて消費税を導入し、さらに引き上げ、国民の税負担を増やしてきました。

ところが一方で「税収は国の財源ではなく、税収と予算は別ものである。国債は政府の負債であって国民の借金などではなく、最終的には政府の子会社で貨幣発行権を持つ日本銀行が引き受ければ返す必要がない」という見方があるのです。果たしてどちらが事実なのでしょうか。この見方が事実であるということを理解すればすべてのものの見方が変わってくるといっても過言ではありません。これは「国民生活の安全保障」にも位置づけられる医療の財源問題や「医療費亡国論」にも直結する極めて重要な問題なのです。

さて赤字国債で支出されたお金は一体どこに行くのでしょうか。これらはすべて「国民の所得」となっていることは現に黒田日銀総裁も国会答弁で認めています。つまり国の赤字は国民の黒字です。「国の借金」は「政府の負債」であって決して財務省やマスコミが喧伝しているような「国民の借金」ではないのです。つまり真実は逆で「国民の所得」なのです。従って「国の赤字を解消する」ということは「国民の所得を税金で吸い上げて国民を貧乏にする」のと同じことになるのです。国と日銀は連結決算で、政府は日銀に返金する必要もなければ、ましてや国民が返す必要などないというのです。確かに我々はかつて過去に生じた国の借金を返済した覚えなど一度もありません。

明治時代以降の国の負債総額は積もりに積もって現時点で優に1000兆円を超えていますが、今、仮に彼らの言うところの国家の財政破綻を救うために国民の預金や資産でこれをすべて返済したとしましょう。その結果、国民全体は極貧になり、それと引き換えに日銀の資産が増え、政府の負債総額はゼロになりますが、一体それで何が変わり、誰が喜ぶのでしょう。国民は「国が助かって良かったね」とでもいうのでしょうか。全国民が貧乏になり不幸になっても財務省の役人は国の財政が健全化したと喜ぶのでしょうか。よくよく考えると国家の負債を返済することに一体何の意味があるのかと思わざるを得ません。

財務省や国の御用経済学者は「赤字国債が膨らむとハイパーインフレになり、長期金利が高騰し、最後は国家財政が破綻して将来世代の負担になる」などと反論します。しかし、彼らにとって大変不都合なことに、今回のコロナ禍で日本の財政出動は約230兆円に及び、112兆円を超える膨大な新規国債を発行したにもかかわらず、経済はデフレのままでインフレ率はマイナス、長期金利は上がるどころか支出に反比例して下がり続け、国家財政は破綻する気配すら全くないということが図らずも証明されてしまいました。現にコロナ禍での財政支出は日本だけのことでなく、米国は約320兆円をも超える巨額の財政出動に踏み切り、世界中で総額1400兆円あまりもの支出が行われています。もし既存の主流派経済学が正しければ、世界の主要国のほとんどの国が軒並み財政破綻を起こすはずです。しかし、実はコロナ以前から日本以外の主要各国は政府主導で財政赤字を厭わずに積極的な財政支出を行い、見事にその額に比例してGDPが伸びているというデータもあるのです。

そもそも国家財政の破綻とはどういうことなのでしょうか。これは国が対外債務を払えない(デフォルト、債務不履行)状態に陥るということです。過去には1987年のブラジル、1998年のロシア、2001年のアルゼンチン、2015年のギリシャなどの例がありますが、いずれも自国通貨建てではなく基軸通貨のドル建ての負債を抱えていた例が当てはまります。この中ではギリシャのみが例外で、ギリシャは国際通貨基金(IMF)に対してユーロで返済できなかった初めての例となりました。つまり対外債務が黒字であり、自国通貨建ての債務であれば中央銀行が自国通貨を発行すればそれで解消できるのです。日本なら国の借金は国の子会社であり貨幣発行権を有する日本銀行(政府は日銀の株式の55%を保有している)が債務を引き受ければ済んでしまいます。日本は現在、世界一の対外収支黒字国です。つまり国民からその分を税金で吸い上げる必要など全くなく、そのことで日本の国家財政が破綻することなどありえないのです。

では地方自治体はどうでしょう。過去に夕張市が財政破綻したことは有名ですが、地方自治体の財源は地方税や国庫支出金、地方交付税などであり、支出が上回り、債務不履行状態になれば財政破綻することは実際にあり得ます。地方自治体は貨幣発行権を持っていないからです。政府が通貨発行権を持つ日銀と一体であることとは決定的な差です。しかし例えば地方発行債を日銀引き受けにすれば財政破綻はなくなるという理屈は十分にあり得るのです。国が地方自治体の財政を助ければ済むのです。

もちろん国債発行による国の財政出動は際限なくやってよいというわけではありません。これは経済の需要と供給の関係によります。みんなが物を買いたいけれど、物が足りない、つまり需要が大きくて、供給が不足しているために物価が上昇するのがインフレです。逆に、みんなが物を買わない、物を作っても売れない、つまり需要が落ち込んで供給が過剰になっているのがデフレです。国による財政出動はインフレの時は行う必要はありませんが、デフレの時には2%程度の適度なインフレになるまで行い、景気を刺激する必要があるのです。つまり「財政収支の均衡」や「PBの黒字化」ではなく、この「需給バランスの舵取り」こそが政府の本来の重要な役目であり、必要な財政政策というわけです。

ここに来て新聞もテレビも全く報じないこれらの事実を理解する人々が徐々に増えてきているように思います。日本以外の主要先進国はすべて積極財政によってGDPを増やし、日本のみが1996年の橋本内閣による構造改革以来の緊縮財政により20年以上もデフレ状態が続き、経済不況でGDPが伸び悩んでいます。然るに財務省は「我が国の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります」などとやはり太字でアピールしていますが、日本以外の主要先進国が大幅にGDPを伸ばしている中、日本のみがGDPを伸ばせずに低迷しているのですから対GDP比でみれば日本だけ比率が高いのは当たり前です。これも財務省の確信犯的な印象操作なのではないでしょうか。

こうなると財務官僚や多くの主流派経済学者がこぞって否定する経済理論であり、「インフレにならなければ財政赤字の膨張は問題ない」とするステファニー・ケルトン米ニューヨーク州立大教授の唱える現代貨幣理論(MMT)は正しいと思わざるを得ません。橋本内閣以降、政府の緊縮財政政策は後に民主党への政権交代があっても全く関係なく、過度にインフレを怖がる財務省の主導の下で行われてきました。この誤りを指摘し、論ずるマスコミも皆無のまま主要各国の中で日本のみが20年以上デフレから脱却できず、GDPが伸び悩んでいることは紛れもない事実です。そのような苦しみの中で追い打ちをかけるようにコロナショックに襲われたわけです。

MMT否定論も目にしましたが、経済学の素人には今一つ理解できません。しかし世界中で問題になっている格差拡大の現実をみると、果たして今の主流派経済学が正しいといえるのか非常に疑問です。MMT否定派は自分たちが今までしてきた論理や主張がすべて否定されることになるので認めたくないのは当たり前です。単に保身に走っているだけなのです。しかし、世界経済の動向をみると、日本以外の主要各国は表立っては言わないものの、米国のFRBや国際通貨基金(IMF)幹部の発言をみると、MMTが少なくともある程度正しいことを認めている節が見て取れるように思います。消費税の増税に追い打ちをかけるかのようにコロナショックに襲われてデフレが一層深刻化し、多くの国民が困窮しているピンチの今だからこそ、多くの国民がこの真実に気づいて声を上げ、財務省に洗脳された政治家たちを目覚めさせ、緊縮財政から積極財政政策に転換させねばならないと思います。デフレを脱出し、適度なインフレに向かえば企業の投資も増え、景気が上向けば確実に税収も増えるのです。

そもそも貨幣とは何なのか、租税の役割は何なのか、という議論はまたの機会にしたいと思います。