共同体主義VSグローバリズム~今そこにある本当の危機~

さてコロナですが、昨年の10月末頃より第3波に突入していた日本のCOVID-19のPCR検査陽性者数は1月初旬にピークアウトし、3月末の時点では下火になりながらも第4波が想定されています。第3波ピーク時における感染者の病床確保については、約2割の公立・公的病院の病床稼働率が逼迫しているのに対し、約8割の民間病院のコロナ患者受け入れ率は20%以下であるとして、民間中小病院は国公立病院に比べて極めて非協力的だとか、開業医は何もしていないとか、民間病院や開業医を束ねている医師会が悪いという一部の識者と呼ばれる人々やメディアからのバッシングが目立ちました。

医師会のコロナ対応に「国はいくらでも金を出すと言っているのに医師会は何もしなかった(高橋洋一内閣参与)」とか、「民間の医師はできないという話ばかりしてやろうとしない(竹中平蔵内閣参与)」とか、菅内閣への批判をかわそうとしてか、国の責任を医師会に転嫁するような発言が多々見受けられました。他にも評論家・八幡和郎氏「医療崩壊するのは医者がダメだから」、医師・元厚労省技官・木村盛世氏「厚労省と日本医師会の無為無策が危機作った」(以上『正論』令和3年3月号)、小西美術工藝社社長・デービッド・アトキンソン氏(元ゴールドマン・サックスのアナリスト)「コロナ感染者を見捨てる 日本医師会とご都合主義者たち(Hanada-2021年3月号)、森清勇氏「“医療崩壊”が炙り出した日本の医療制度大問題」(令和3年2月15日JBpress配信)などの文章が目につきました。

私はこれらに対して非常に憤りを感じています。彼らの発言や文面は全く酷いものです。これらの人々の全員とは言いませんが、中でも竹中平蔵氏、八幡和郎氏、デービッド・アトキンソン氏といった面々は以前から医師会を攻撃する市場原理主義のグローバリストたちで、「国民皆保険の堅持」を唱える医師会を事あるごとに「成長戦略の抵抗勢力」として叩いてきました。彼らこそ米国の巨大な国際金融資本の手先で、真の目的は国民皆保険の硬い岩盤を崩すことによって国際金融資本を健康保険ビジネスに参入させることなのです。

 彼らが経済財政諮問会議や規制改革推進会議、成長戦略会議といった「有識者会議」の名の下で政府に食い込んで自分たちに利益誘導を行う「我田引水」の法改正を行わせ、中でも竹中平蔵氏が代表取締役を務める人材派遣会社「パソナ」やオリックス、外資企業などが暴利をむさぼってきたことは近年の政治と金の動きを見れば明白です。利益相反も甚だしいといえます。橋本内閣以降の構造改革、緊縮財政施策に始まり、小泉内閣で加速した新自由主義の波は、規制緩和による人材派遣の自由化(労働法制改正)、大店法廃止(大型店立地法)、外資の日本参入とM&Aの柔軟化(商法改正、会社法改正)、郵政民営化など、すべて米国というよりも世界を牛耳る国際金融資本の要求により次々と実現されており、日本人の資産は彼らの餌食となって吸い取られ続けています。

さらに今、彼らが狙いを定めているのが日本の中小企業のM&A(中小企業基本法の廃止)、医療保険分野、農業分野であり、最も邪魔になるのが中間組織である医師会や農協というわけで、「成長戦略の抵抗勢力」とか「既得権益だ」とレッテルを張り、国民のルサンチマン(弱者が強者に対して抱く「恨み」や「嫉妬心」のこと)を煽って攻撃してきます。菅内閣になり、竹中平蔵氏やデービッド・アトキンソン氏が重用されているのは非常に危険な兆候です。

1996年の橋本内閣以降の構造改革、緊縮財政が継続する中で、日本人全体の生活は向上し、豊かになったでしょうか。日本経済だけが長期のデフレで低迷し、国民の平均年収は下がり続け、格差が広がって二極化が進んだ事実を見れば国の経済政策の方向性が間違っていたことは明らかです。小さな政府、規制緩和、聖域なき構造改革、既得権益打破、市場原理、能力主義、民需拡大、成長戦略、身を切る改革、改革を止めるな、などといった一見正しく思わせるワンフレーズ・キャッチコピーの下で行われ続けた経済政策で果たしてこの長期のデフレが解消したでしょうか。他の先進主要国と比べて日本のGDPはどれだけ伸びたでしょうか。積極的な財政出動で国は本当に財政破綻するのでしょうか。かつて関係者に衝撃を与えた医療費亡国論は果たして真実なのでしょうか。

ではこれらの間違った経済政策、緊縮財政政策は何故続けられているのでしょうか。なぜ変えられないのでしょうか。理由は2つ考えられます。ひとつは大多数の人々と同じように多くの政治家たちも国家の財政破綻の危機を信じているからです。もうひとつは間違いと分かっているがデフレが続いた方が自分たちの利益に繋がる政策を誘導しやすい、あるいは本気でそれが正しいことだと考えているグローバリストたちがいるからです。今、消滅の危機に瀕しているのは地方経済を支える日本の優良な中小企業と地方銀行です。コロナ禍にかこつけ、中小企業を中堅企業に引き上げると一見良さげに見せかけたショック・ドクトリン(中小企業基本法の廃止)でM&Aが進められようとしています。これによって一番利益を上げるのは一体誰なのでしょうか。因みに中小企業庁が今回の第3次補正予算の「事業再構築補助金」の事務局に選定したのはパソナグループで、その事務局経費399億円余りにも上ります。

死者数世界最多のアメリカでも新型コロナによる医療崩壊は起きていない、などと言う人がいますがこれは誤りです。国民皆保険制度のないアメリカでは、お金のない患者は適切な医療が受けられずに自宅でバタバタ死んでいっているというのが実情であり、十分な医療を受けられる人は一部の金持ちに限られているからです。アメリカの医療は金持ちだけのためのものであり、既に1980年代のレーガン政権以降の医療の自由化で崩壊しているのです。国民皆保険制度が崩れれば日本もアメリカのように金持ちだけを相手する医療になるので医師の仕事にも余裕ができ、今よりもっと裕福になるのかもしれません。果たして日本をそんな個人主義の国にしてよいのでしょうか。

今回のコロナ禍で、欧米に比べて日本の死亡者数が圧倒的に少ない要因のひとつは堅固な国民皆保険制度にあることを忘れてはなりません。また、いわれなき批判に晒されながらも東京・大阪をはじめ、各地の医師会が国公立病院、民間病院、診療所を繋いだ役割分担を行い、行政とは医療者のリスクを最小限に留めながらリスクの高い医療を行うための交渉を粘り強く行ったことも見逃せません。医師会は「開業医の利権団体だ」などとレッテルを張って批判する人々もいますが、医師会という存在がなければどうなっていたかを考える人はあまりいません。医師会は、医師を個々に分断して力を削ぎたい勢力から、医師の共同体を守るための「中間組織」であるという認識を我々はもっと持たねばなりません。

私はこれ以上日本が国際金融資本による巨大なマネーゲームの草刈り場となって日本国民の生活が脅かされるのは耐えられません。日本の心ある医療者は自己の利益ではなく真に国民の幸福のために国民皆保険を維持することを望んでいます。日本人は古来農耕民族であり、そのDNAにはお互いに助けあうという共同体主義の精神が刻み込まれています。欧米の市場原理主義、個人主義、グローバリズム、弱肉強食の狩猟文化には決して馴染みません。

共同体主義は資本主義の内部で共同体(コミュニティ)の価値を重んじる考え方であり、自由主義(リベラリズム)が個々人の属性としてある人種・家族・性別を軽視していることを批判し、リベラリズムの限界を説き、正義よりも善を優位に置いています。個人が集まって力を発揮することを嫌うグローバリストたちは、巧みにルサンチマン・プロパガンダを行って人々の分断を図り、組合や自治会、あるいは農協、医師会などの中間組織を排除しようとします。 共同体主義は資本主義を否定する共産主義とは一線を画しています。今の中国を見ればわかるように、一握りの権力者が情報統制や情報操作を行い、極力個人の繋がりを排除して管理する共産主義の手法は、グローバリズムとの共通性、親和性が非常に高いのです。これらの立場は共同体内での人の繋がりを大事にする共同体主義とは対極にある考え方です。私たちは私たちの子や孫の世代に対する責任があります。私たちはどのような行動をとるべきでしょうか。皆さんはどのようにお考えでしょうか。